記録帳

日常の体験と、読書、映画の感想を主に書きます。

小説 高殿円「上流階級 富久丸百貨店外商部」

著者は、TVドラマにもなった「トッカンー特別国税徴収官ー」の原作者ですが、私的にはこちらの方が面白いと思いました。

上流階級 富久丸(ふくまる)百貨店外商部 | 高殿 円 | 本 | Amazon.co.jp

すごく面白かったし、百貨店の外商というのがどういうものかよくわかりました。

とは言っても、その面白さをここで語ろうというのではありません。

大体、私は百貨店によい思い出がありません。学生時代、デパート店員はみんな強引で不親切で、ハゲタカのようにたかってきて無理やり欲しくもないものを買わせるような人ばかりだと思っていました。結局買いたいものは買えずに、2、3回着たら仕舞いこんでしまうような似合わない服ばかり買っちゃうのです。友人は、「デパートって、いろんな物があるのに、欲しい物だけがない。」と評していました。かつて、まだそごうがあった頃、紀伊国屋書店に行こうとすると、いつも1階の化粧品売り場のお姉さんに捕まってなかなか放してもらえなくて困りました。大回りをして裏の方からコソコソ上がったり、外階段からバスセンター経由で上がったり、今風に言えば、危険なダンジョン付きのRPGやってる気分でした。客にこんなに気を使わせる店って何?

だから、そごうが潰れたときなどには自業自得だと思いました。買い物をするのに気が重くなる店なんて、滅びていくのは当たり前です。最近では、デパートに足を踏み入れるのは北海道物産展の時くらいです。

しかし、それはともかく、外商ですが・・・

 

姉がちょっとカスった話

いつだったか、実家に行くと姉が来ていて、黒のカシミヤのセーターの上に大粒の真珠のネックレスを着けていたので法事帰りかと思いましたら、違うんです。

「それ、すごく上等そうだけど、いくらしたの?」と聞くと、

「それが、聞いて!お母さんが10万送ってきてね、『あんた、今年は厄年だから、これで何か長いもの買いなさい。ネックレスか帯締めかベルトか何か。』と言ってね。」

「ふーん。」

「それで、そういえば職場の旅行で伊勢志摩に行った時に、同僚の人はみんな大金を持参していて真珠のネックレスを買ったのに、私はそういう気がなかったものだからお金がなくて買い損ねて、後で後悔したことを思い出して、『よし、真珠のネックレスを買おう』と思ったの。」

「へえ、じゃあ10万?」と聞くと、

「違う、違う、その後があって・・・。うっかりうちのお義母さんに話してしまったら、なんと、デパートの外商を呼んじゃったのよー!」

「えっ、お宅、外商入ってるの?」

「まさか!以前お義母さんが何か高額商品を買った時に、お得意様カードを作るように言われて、それがあると買い物が割引になるし、優待会にも招待されるらしいんで、ほんのちょっとの期間お世話になっただけなのに、とにかく宝石類はデパートで買うものと思い込んでて電話したらしいんだけど、仕事から帰ったら外商の人が待ってて、・・・」

「で、10万?」

「違う、違う、外商が持ってくるのは10万、20万の品じゃないのよ。50万とか100万とか、そんな高価なネックレスばかりでね、もう、血の気が下がっちゃったわよ。」

「そういう時は、正直に謝ってお帰り頂くしかないでしょ。」

「それが、だいぶ待って貰っていて申し訳ないし、もう、ひたすらお義母さんの顔を潰しちゃいけないということばかり考えて、1本だけ30万のネックレスがあったから、『これにします』と言って、タンスの中のお金をさらえて現金で払ったのよ。」

「じゃ、30万?!」

「そう。で、大事に仕舞いこんでいたんだけど、考えてみると、うちには娘もいないし、私が死んだら、これきっと捨てられてしまうに違いないから、生きてるうちにせいぜいつけておこうと思って、最近ちょくちょくつけて出るのよ。」

「真珠は手入れしないと曇って劣化するし、何代もは持たないと思うから、せいぜい日頃から身に付けておくといいよ。一目で上等なものだとわかるしすごく綺麗よね。」

と言ったのですが、正直30万は高過ぎだと思いました(似合わないし)。それに、ちょっとデパートの外商に不信感も持ったのです。押し売りみたいじゃないですか。

今回、この小説を読んで、やっぱりそうだと思いました。初めから、姉が50万100万のものを買うとは思ってなかったのです。中に一本だけ30万のものを紛れ込ませていたのは、せいぜい頑張ってこの程度かなと思っていたんです。選択の余地をなくしてそれに飛びつかせたのでしょう。単発の客と見切っていて、お姑さんの勘違いを利用してノルマ達成の捨石にしたんです。そういうのはプロとは言えないと思います。

ま、どうでもいいですけど。どうせ百貨店なんて、今後も縁がありませんから。

 

私の厄年

私の時も母が現金書留で10万送ってきましたが、私はそのような迷信を激しく憎んでいますし、ネックレスも帯締めも必要な状況にありませんので、お金はすぐに貯金してしまいました。そうしたら2度も3度も電話を掛けてきて、買ったか、買ったかとうるさいのです。「何もいらない」と言うと、「そういう問題じゃない」と怒るので、仕方なくディスカウントショップに行って、2000円くらいのベルトを4、5本見繕い、さらに1本1000円のニセ真珠のネックレスを買い、帰りに肉屋に寄って、1枚1500円のサーロインステーキを家族分買って帰り、その日の夜は「厄年万歳!」と言いながらみんなで肉を食って乾杯したのでした。差額が随分儲かりましたし、ベルトはとても重宝し、厄年も別に何事もなく過ぎたのでラッキーでした。